天使か子悪魔〜出会い編〜
初めてマー坊を見たのは、あれはちょうど今くらいの季節。 オレ達はまだ小学3年だった。 そして、一週間後には、初めて口きいて。 その同じ日に。 初めて喧嘩して。 なんでかそのままダチになった。 夏休み前に来た、隣のクラスの転校生。 それがマー坊だった。 マー坊は、転校初日から目立ってた。 人を惹きつける軽やかな笑顔は、今と同じで。 やっぱり、クラスの奴からチヤホヤされてた。 だけど、ガキの世界にも色々あって。 己の力を誇示したい、特に人気のある奴は自分の傘下にしておきたい、と思うヤツらもいて。 途中から現れて、皆からの人気を獲得しているマー坊を 己の配下に引き入れたい、と思ったヤツらがいた。 ガキにはガキなりに、ガキの社会があるから。 チビで可愛いその転校生を軽くシメて、自分たちの仲間にしようとした訳なんだけど。 相手がマー坊だったから、そう上手くいく訳ない。 そいつらは、自分たちの予想を遥かに裏切る強さのマー坊に逆にシメられて、 オレのトコに泣きついてきたというわけ 「頼むよ、アッちゃん…!!オレ、この学校でアッちゃんが一番ツエーと思ってんだよ。 あんな弱そーな奴に負けて、納得いかねーよ!!アッちゃんアイツ、シメてくんねー?」 「納得いかねーって、実際負けたんだろ…? てゆーかよ、何でオレがテメーのカタキうちみたいな事しなきゃなんねーの」 ハッキリ言って、ソイツとは仲が良かった訳じゃないし。 オレは噂の転校生をシメたい、とも思わなかったし。 だけど、興味はあった。 チラリ、と見たけどチビだった。 ホントにつえーのかよ…? 実際、目の前のヤツはその転校生にやられてる訳だけど…。 どんなモンか、見てみてーな。 正直、気になりだした。 別に喧嘩したい訳じゃないけど、ホントにちっと気になってた。 「…アッちゃんー、手貸してやれば?」 「ちっとは世間の厳しさを教えてやらねーとさー」 オレの横にいたヤツらが無責任に言う。 「アッちゃん!!頼むよ!!」 「……しょーがねェな」 普段なら、ほっとくと思ったけど、何故かその時は引き受けてしまった。 で、引き受けてしまった、その日。 タイミングが良いのか、悪いのか、オレは喧嘩の前にマー坊に会った。 昼休みも、もう終わりという時間、屋上で。 オレは何となく、次の授業をサボリたくて屋上へ行った。 するとそこには先客がいて。それが、マー坊だった。 オレが来た事に気づいて振り返ると、キョトンとしてオレに言った。 「…もー、昼休み、終わっちゃうよ?」 「オメーこそ…オレは次、サボっからヨ…」 「そなの?…オレも〜〜vv」 そう言って、マー坊はにっこり笑った。 今でも、たまに思うんだけど…そん時のマー坊の笑顔ってのが、まるで天使!みたいなカンジで…。 オレは何だか嬉しくっていうか…とてもイイ気分で。 きっと、オレはコイツと近いうちに喧嘩しなきゃなんねーんだけど…そんな事カンケー無くて、 無条件にコイツの事、受け入れられるみたいな…そんなよく分からない感覚。 オレは思うんだけど、どうやらオレはこのマー坊の笑顔を見ると幸せになれるみたいで。 初対面のこの時も、どうやら幸せな気持ちになっていたらしい。 「オレェ…この前、転校してきたんだけど〜」 「あぁ、知ってる…で、いきなりサボリか?」 悪びれもせず、普通にサボリ発言のマー坊にオレは苦笑する。 「そっvvオレ、マサト。鮎川真里。」 そう言えば名前はちゃんと知らなかった。 ああ、そうだ。『あゆかわ』ってどっかで聞いたかもしれない。 「オレはアキオ。真嶋秋生。」 「ふ〜〜ん…アッちゃん…?」 「オウ…」 いきなり、あだ名で呼ばれて普通ならちっとイヤなトコだけど、マー坊の場合全然イヤじゃない。 「オレは、マー坊って呼んでよ」 マー坊は、どういうわけかオレを幸せにする、あの笑顔で、オレに言った。 可愛い。 口にはしなかったけど、激しく思った。 初対面の時のこのキラキラ笑顔で、オレの中には、マー坊は天使っぽくインプットされた。 青空の広がる屋上で、喧嘩する一足先にオレたちは出会った。 まったりと流れる時間を、まるで前から隣にいるのが当たり前のような感覚で二人で過ごした。 ++++++++++++++++++ 「アッちゃん!!今日の放課後…頼むよ。もう、アイツは呼び出してあるからさ…」 もう一度、マー坊を呼び出したソイツは、いきなり今日、マー坊との喧嘩の話を持ってきた。 あ〜あ、…気が進まない。 正直オレは、マー坊と喧嘩するのがイヤだった。 だって、オレは…アイツと仲良くなりたかった。 オレは、指定された場所に重い足取りで向かった。 ちっこくて、可愛い奴。 その場に佇むマー坊を見て、やっぱりそう思った。 だけど、それだけじゃすまないのは、マー坊の足元に血だらけのヤツらが何人も転がってるから。 「何で、オレのコト、そんなに気にいらねーの?」 心外、と言わんばかりの口調とは裏腹に、その口元は笑みを浮かべていた。 それは、血が好きな獰猛な獣を思わせた。 「ねえ?もっとする?」 または、可愛い顔をした子悪魔。 その可愛らしい外見で騙される。 本当は、迂闊に近づいたらダメだ。 迂闊に喧嘩とか売ったら…大変なコトになるだろ。 オレは、本能的に思った。 ヤバイ。 勝てるかどうか、分からない。 「あ、…アッちゃん?」 ふ、と顔を上げたマー坊がオレを見つけた。 「ど〜したの?こんなトコでェ…?」 あの笑顔をオレに向ける。 ああ、やっぱり天使もいる。 子悪魔と天使が共存している。 オレはぼんやりそう思う。 「……」 オレは何て言ったら良いのか分からなくて、黙ってた。 マー坊に殴られて這いつくばってたヤツがオレを見つけて言う。 「アッちゃん…頼むよ…コイツ、シメてくれよ」 「……」 「……。もしかして、助っ人連れてくるとか言ってたのって…アッちゃんのコト?」 「ああ、何か、そーみてェ」 「オレ…アッちゃんと喧嘩したくねェよ…?」 「オレも、ホント言うとオメーと喧嘩したくねェ」 でも、そういう訳にもいかない…という雰囲気。 「…じゃあ、オレとアッちゃんと…どっちがつえーか…試してみよっか?」 マー坊はそう言って笑った。 +++++++++++++++++++++ 「アッちゃん強いネ?」 ニッコリと笑いながらオレを覗きこんでくる。 オレはやっと自分が負けて、寝こけてたのを理解する。 頭がフラフラする。こめかみが痛い。 体を起こしてキョロキョロと周りを見回す。そこにはオレ達二人しかいなかった。 「あーアイツら、逃げちゃったよ?自分らが始めたコトなのにさ。クソだね?」 「オメー、つえーな。」 「そ?でもオレ喧嘩して負けたコトねー。」 それは、実際、事実なんだろう、と思う。 「…アッちゃんもかなり強いよ?オレ分かるもん。」 「…オレも今までタメのヤツに負けたコトねーよ?今日初めてオメーに負けたよ。」 オレは今まで同い年のヤツに負けた事がなかった。 だけど、不思議と悔しくなかった。 もともとマー坊と喧嘩する気もあんまりなかった。 何となく、喧嘩する前からマー坊がバカ強ことを感じていた。 「ああ!!真里!!アンタ、こんなトコで何してんの?!」 バタバタと若い女がオレ達の元に駆け寄って来た。 若くて、小柄で、可愛らしい女。…誰? 「かーさん?何でこんなトコいんの?」 マー坊の母親だった。 「これから仕事行くのよう!」 「ふ〜ん」 「って、アンタ、これ血?ねェ…やっぱ苛められてんの?!正直に言いなさい?」 「イジメ〜?ンな訳ねーじゃん」 「だって、アンタ、昔っからよくケガして帰ってくるし…」 「遊んでんの。ネェ?」 急にマー坊がオレに話を振る。 「あ!!…友達?!」 やっと、一緒にいるオレのことに気づいたみたいだった。 「ウン」 何の躊躇いもなくマー坊は答える。 「アッちゃん」 「アッちゃん?あのあのッ、この子、苛められてない?お願い、仲良くしてやってね」 「…ああ」 取りあえず、勢いに押されて返事はしたものの。 何言ってんだ。この女は。 自分の息子の事分かってねえな…。 オレは呆れた。 コイツが苛められるタマかよ。 コイツに手出した奴らはコイツの3倍は流血してたしよ…。 自分の息子がバカつえー事とか知らねェの? オレは珍しいものを見るような目で見てたと思う。 「あ!!今日、カレーなの!鍋に一杯作ってあるの! だから、良かったらアッちゃんも一緒に食べて!!」 彼女は思い出したかの様にそう言って、最後にまたオレに言った。 「ねェ、アッちゃん、…この子のコトよろしくね?」 …?? いきなりよろしくされてしまったオレは何て言ったら言いのか分からない。 ただ、彼女がやたら必要のない心配を息子にしてる事は分かった。 ……その勘違いは今現在でも続いている。 「じゃあ、行くから!!」 そう言って。オレ達二人の頭を撫でて、彼女はまたバタバタと走って行った。 「オフクロ?」 だろうとは思ったけど、念のため聞く。 「うん」 「ふ〜ん…」 まあ、可愛いカンジがコイツと似てるよな…とか思う。 「カレー食う?」 「ああ?」 「うち来なよ?鍋一杯だからvv」 ニコニコ笑顔で誘われた。 あの天使っぽい笑顔で。 断れるわけない。 そう、オレは最初っから、そうだった。 そしてそれは、現在に至る。 オレはその日初めて口聞いて、さらに初めて喧嘩した、隣のクラスの転校生と親友になった。 オレ的に運命の出会いだった。 だけどそれは酷く自然で、もう初めからずっとダチだったような感覚だった。 ++++++++++++++++++++ 次の日。 オレのクラスのドアをマー坊が無遠慮に開けたとき。 オレの周りのヤツらは一瞬恐怖で凍りついた。 「アッちゃ〜〜んvv」 だけど、お日様みたいにオレに笑いかけて寄ってくるマー坊に、また違う意味で固まった。 すっかりオレに懐いてるみたいなマー坊に、??マークが飛び交っている。 「おー…」 オレはそんな周りのヤツらを無視して、まるで昔っからの親友みたいにマー坊を迎え入れた。 「ねー、アッちゃんち、単車一杯あるってホント?!今度遊びに行ってもイイ?」 「ああ、イイぜ?ウチ、アニキもいんだけどよ〜…」 「ホントに!オレアッちゃんのアニキも見てみてー!!おもしろい?!」 「……いや、フツーだぜ…」 こうして、マー坊がオレんち(真嶋商会)に入り浸る日々が始まった。 そして、それは現在に至る。 でも、まだ、ただのダチ。 この時は。 -------------------------------------------- チビっこ編を捏造しちゃった!!(笑) 運命の出会いがそこに……。 チッビっ子だけど、アッちゃんはあんなん…(普通に今のアッちゃんと変わりなく書きました/笑) マー母はおっとりさんで。いまだに自分の息子が鬼だという事を知りません。 というか色々知りません。天然で。 マー坊は友達多いけど、家まで連れてくる相手ってあんまりいないんじゃないかといういう設定。 結構、皆のコト普通に好きだけど、本当に好きで居心地イイ人としかベタベタしなの、マー坊は。 そんな設定(笑) そのため、マー母はマー坊に友達いないんじゃないかと心配したりします。 ああ、妄想が止まらない…。とっても止まらない。 やはり秋マーはこんな日常を妄想するのが楽しいです(笑) しかし、その傍らで微エロを妄想したりもします。節操ないんで!! …え〜っと二人がラブラブになったのはどんな経緯なんだろ?!とか。 (つまりお互いの気持ちを確かめ合ったのはいつなんだ?!とか…) 初めてチューしたのはどんな経緯で?!とか。 ああ…捏造したい…(笑) アッちゃんにとって、マー坊はキラキラ天使なんですね〜(笑) で、たまに現れる子悪魔(っていうか鬼っ子?)マー坊を見て、 「あ〜あ…もう、あ〜なったらしらねェぞ…」とか思って見守ってる。 まあ、自分には関係ないから(笑) (2004.6.1) 戻る |