物凄く、ムシャクシャした気持になった。腹立たしい。 どうしてだかは口では上手く説明出来ない。ただ、イライラする。 時貞の奴が、またあの謎の言葉を呟いているのを見ると。 それは有名な詩人の言葉らしけど、オレはそんなコトしらねえ。 さっきから、鬱に入って一人の世界に入っている時貞が目の前にいる。 「オイ、」 時貞がオレの声に目線をあげる。 その目は何を考えているのか、オレには分からない。 オレの理解不能な暗闇に。吸い込まれる。 …そんな気がしたから。 思い切り、時貞の顔面をぶん殴った。 テンプルを横殴りにされた予想外の一撃に、時貞は壁に激突する。 「…………」 片腕を床につき、身を起こそうとするものの、脳味噌が揺さぶられた衝撃が抜けきらず、 フルフルと小さく頭を振る時貞の髪を鷲掴みにして顔を挙げさせる。 「……っ」 眉をしかめ、見上げる瞳は衝撃で我に返ったようで。 その中にはオレ。 オレの、獰猛で凶悪なツラ。 「…しけたツラしてんじゃねえよ」 時貞を見下ろして言う。 「ナンだ…その。訳のわかんねー事ばっか言いやがって」 無理矢理に正気に戻らせてやる。 時貞がゆっくりと瞬きをしてオレを見つめる。 オレの胸ぐらを掴んで自分に引き寄せる。 鼻先がくっつくほどの至近距離にオレを引き寄せ、口端をあげて微笑む。 不思議な。 嘲りの入っていない純粋な微笑み。 「…そんな風に言うやつは、あんまし、いねーな…」 そのままオレの唇を舐める。 「オマエといると安心するよ…」 オレの唇の形を確認するように、何度も舌を行き来させ唇ではさみこむ。 オレは時貞の好きにさせてたけど、自分が唇と舌とで探られる感覚に耐えきれず、 同じ事を返してやりたくなって、仕返しのように時貞の唇を舐め返してやった。 静かに、だけど、思わぬ激しさが生まれる。 存分に互いの唇の感触を確かめ合う。 緩くほどけあった唇の隙間にどちらからともなく侵入を許して、互いの舌がその口腔内で絡み合う。 それをもっと感じたくて、オレは身を乗り出す。 もっと奥へ奥へと侵入し、舌を絡ませる。 「…ん……」 時貞が苦しそうに唸る。 ハッキシ言って、コイツの事は理解不能で全ッ然分かんねーけど。 こうして感じるコイツは確なもんで。 その感覚に安心する。 ふいに消えて、いなくなっちまうんじゃねーか……なんていう危うい感覚は消してやる。 そうだよ、コイツは訳がわかんねー奴だ。 いきなり、自分の世界に入り込んで訳の分からない言葉を呟いてたりする。 …だから、いつだってオレはオレの世界に連れ戻してやりたい。 無理矢理にでも。 そんな事を頭の片隅で思いながら、強烈に甘い痺れが体に充満するのを感じていた。 絡み合う舌の感触が熱い。 唾液が交じり合う音がやたら卑猥。 そして互いの吐く息が、獣じみて荒い。 何故だか……止まらねえ。 オレを受け入れ、応える時貞。 眉根を寄せておとなしく目を閉じている。 その表情はオレの知らない恍惚の表情。 「……」 久し振りに離れた唇。 「……──」 何を言おうってんだ。 何かを言おうとしたけどそれが何か分からなかったから、オレは、とにかく口を開いた。 「…ヤらせろよ」 とりあえず、今の気持ちに一番正直な言葉はこれだ。 気持ちというか、体に正直なというべきな。 オレは、正直自分でも驚くほどに張りつめていた。 ゆっくりと目を開ける時貞。 「なんでだよ」 不敵に、探るようにオレを見つめ返す。 なんで、だァ? ンなのにいちいち理由がいんのかよ。 理由なんてねえよ。 ただそーゆう風になってんだよ、今。 なんでって言われても、だ。 ヤリたいもんはヤりたい。それでいいだろ。 「じゃ、グラサン外せよ」 「あ?」 「オマエのヤってる時の顔が見てーよ」 そう言って、オレのグラサンを奪い取る。 恥ずかしげもなくそんな事言う時貞に、やっぱコイツ変態くせーとは思ったまま、 奪いとられ放り投げられたグラサンの心配をする。 …ってゆーか、オレの大事なグラサンを…コイツは。 だけど、まあ、いいか。 アイツ(グラサン)はオレとおなしでんなヤワじゃねー。…ハズ。 オレは余計なものが無くなった勢いで時貞の項に顔を埋める。 そして舌で首筋を舐めながら時貞の匂いを嗅いだ。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ちゃんと攻めっぽいヒロシが書きたかった……けど最後の方で既にヤバイ。 すぐに主導権は天羽くんにもってかれそうになるヒロシ…。 天羽くん視点で書くといいのではないかと思ったけど、 私的に天羽くんはイマイチ感情移入出来ないので難しそう。 いつかはそんなヒロシを……書けたらいいな(笑) (2006/12/06) 戻る |