●真嶋兄弟●
夏生「よォ…秋生。オメー、事件の事調べてんのか…?」 ここは従業員の控え室。 女将の夏生と若女将の秋生は、ちょうど二人だけで休憩中でした。 秋生「ああ、ウチの旅館のためにも早くこの事件解決してやんねーとよォ…」 夏生「……。そーかよ。…捜査もいいけどよ、仕事に支障きたすんじゃねーゾ?」 秋生「ああ、それは分かってんべ、アニキ。」 秋生は、今までに自分が調べた事・分かった事を夏生に話します。 同時に今の容疑者である武丸に対する違和感、従業員が犯人である可能性も打ち明ける。 夏生「……!!」 夏生は秋生の考えに驚いたようです。しばらく言葉がありません。 秋生「アニキ…アニキはどう思う…?」 夏生「……実は…」 夏生は傍らからあるモノを取り出したのです……。 秋生「…アニキ…!!これは…」 秋生「マー坊、ちょっといいか?」 マー坊の部屋を訪れた秋生は真剣な表情でマー坊を呼びます。 マー坊「アッちゃん?どうしたの…?」 秋生「実はヨ…真犯人が分かっちまったんだよ…」 ●ここは崖。断崖絶壁。下は海ですぜ(とうとう始まるよ!怒涛の犯人逮捕シーンが…)● ピュ〜と風の吹く岩肌の上に、皆が集まっている。 刑事達、真嶋屋の従業員、魍魎組の二人、そして観光客であるマー坊と拓。 鰐淵「なんだ、どうした?みんなをこんなトコに呼び出して?」 萌子「ええ…いったい何の話があるっていうの?」 秋生とマー坊は、この場所に今回の事件の関係者を呼び出したのだった。 秋生「ああ…実はよ。…武丸は犯人じゃねえんだ。」 秋生は皆の顔を順番にゆっくり見つめて言う。 集まった者達は皆、以外な表情を浮かべ、ざわつく。 秋生「本当の犯人は…この中にいる!」 鰐淵「どーいうこった?!」 萌子「そうよ。犯人は武丸で決まりよ?」 秋生「…真犯人がいんだべ……真犯人は…オメーだ」 そう言って、秋生は一人を指差します。 秋生「龍也、本当の犯人は、…オメーだろ…?」 龍也「なっ?!」 秋生が指し示したのは、真嶋屋の板長、龍也だったのです。 鰐淵「何ィ?!榊が犯人だァ…?」 萌子「どういうこと?説明してよね?」 秋生「ああ。…マー坊!」 呼ばれたマー坊が一つの手ぬぐいを持ってきます。 夏生「…それは…」 秋生「ああ、これぁアニキがオレに渡した手ぬぐいだぜ。 コレが、犯行現場の途中に落ちてたってな」 夏生「ああ」 秋生「本当はアニキもコレが誰のモンかは分かってたんだろ?」 夏生「……」 秋生「この手ぬぐいは…龍也、オメーのだろ?」 ……そう言って、秋生は龍也に手ぬぐいを差し出した。 龍也「……っ!!」 マー坊「龍也、オレ達分かったんだ。久保島が殺された時、 あの露天風呂に裏の通路から一人で行けたのは、オメーと須王くんと誠さんだけ。 そこに普段はほとんどあの通路を使うことのないオメーの持ち物が落ちてるなんて、変だろ…?」 秋生「アニキがコレを拾って、その後ずっと刑事達にも秘密にしてたんだ。」 マー坊「…そういえば、最近の龍也の様子が変だ…って夏生さんが言ってたぜ? ちょっとした事でピリピリしたり、塞ぎ込んでたり…って」 龍也「何言ってんだ…?オレは知らねーぜ?その手ぬぐいだって、探してたんだぜ?」 龍也は明らかに狼狽しながら答えるのです。 マー坊「じゃあ、あん時、どこで何してたんだ?」 龍也「ンなの、テメーにカンケーねえだろ?!」 マー坊の無遠慮な質問に龍也がカッとして怒鳴ります。 夏生「龍也。本当の事、言えよ…」 夏生は悲しい表情で静かに、そして龍也を諭すように言いました。 龍也「夏生サン…」 ●龍也の過去● 龍也は先代の頃、初めてこの真嶋屋へとやってきました。 当時、今の女将の夏生はまだ若女将で、修行中でありました。 そのころ、龍也はヤのつく稼業をしていたのですが、 龍也の属していた組が何者かによって潰されたのです。 (後にそれは魍魎組だというコトが分かる) 行く当ての無い龍也は、フラリとこの真嶋屋へと宿泊します。 疲れた心身を癒すために……。 そこにいたのが、真嶋屋の大女将。 実は龍也とは古い馴染でありました。龍也は思いがけず古い知り合いと再会するのです。 大女将は龍也の身の上を心配し、この真嶋屋で面倒を見る事に決めました。 龍也もその恩に報いようと、そもそもが真面目な性格なので、 真面目に修行をし、立派な板前になったのでありました…。 そして、大女将が引退し、夏生が女将を継ぐ事になります。 夏生はいきなり現れた龍也にも、他の従業員と変わりなく接してくれました。 板前歴のまだまだ短い龍也のコトを影で罵る輩もいましたが、 夏生は、敬意と親しみを持って接してくれました。 今まで、生きるか死ぬか…そして血なまぐさい世界で生きてきた龍也にとって、 この真嶋屋は始めて安らぎを感じられる場所だったのです。 龍也の中で、大切な場所となっていたのです。 そんな真嶋屋での幸せな生活……そこに黒い影を差し込んだのが魍魎組でした。 龍也は、昔自分の組を潰したのが魍魎組だというコトをこの時調べ上げてました。 しかしだからといって復讐しようなどという気は無く、係わり合いになる事を避けていました。 しかし、(龍也から言わすと)魍魎組の方から龍也の前にやってきたのでありました……。 魍魎組武丸は、一度ならず二度までも龍也の前に、龍也の大切なものを奪う形で現れたのです。 武丸は、真嶋屋のある土地を得ようと、圧力をかけてきました。 そして、客を装い何度も宿泊してきました。 その度、場違いな客に、他の客達は眉を顰めるのでした…。 先代から受け継いだ旅館を決して手放すまいと細腕で頑張る女将(ホントは筋肉隆々ですが)。 そんな女将の願いを砕こうとはっ!! やっと辿り着いた幸せ地(女将のいる旅館)まで奪おうとする武丸に、 殺気MAXになるのは龍也からして言わすと当然の事でした。 ●断崖絶壁での龍也の告白● 龍也「オレは、正直驚いたんだ…。今更、どうしてアイツ等がオレの前に現れたのかってな。 オレの事を追ってきたのかとも思った。 だけど本当はアイツ等はオレの事なんてちっとも覚えて無かった。 目的はこの旅館だったんだ。魍魎組は今やヤクザというだけじゃなくて、 表の顔は普通の企業みたいになってる……。その普通ぶった企業ヅラして、 この辺りの土地を買占めて、新たな自分達の関連事業を興そうとしてるんだ。 そうして、取引に応じない土地の所有者には、 武丸達のような荒っぽい連中が直々に出向いて地上げ行為をするんだ。 武丸の顔を見た時、オレはブチキレそうになった。 一度だけでなく二度までも、オレの大切なものを取り上げようとしている武丸が憎かったんだ。 それに…女将のためにもこの旅館はぜったい明け渡したくなかった。 大女将の決めた事とはいえ、素性の知れねえオレを、何の含みも無く接して… 使ってくれた女将にオレは感謝してる。 オレは女将の大切にしているこの旅館を守りたかったし、オレもこの場所が好きだった…… だから…だから、この真嶋屋を守れて、その上で魍魎組を窮地に陥らすためにっ… 武丸の仕業に見せかけて、久保島を…殺ったんだ……!!」 と、(律儀にも)全ての告白が終わる。 土地を追われた龍也。 そんな彼がやっと見つけた幸せ地。 すべてはそれを守るための犯行だったのであります。 断崖絶壁に走る龍也。 夏生「……龍也…っ」 鰐淵「何する気だ、榊ィ…!!」 鰐淵刑事、以下刑事達は龍也を確保するために駆け寄ろうとします。 龍也「来るなーーーーっ!!」 夏生「龍也っ!テメー、なにやってんだ!!」 なんと、龍也は崖から飛び降りようとしています! 龍也「……夏生サン、オレ…良かれと思ってやったけどよ…やっぱ迷惑かけちまったスよ… オレが死ねば……丸く収まる……だから来ないでくれ!!」 夏生「……バカヤロウ!何言ってんだっ」 龍也「……オレ、アンタのおかげで色々と救われたよ…感謝してる…」 秋生「龍也っ!!」 龍也「オゥ…秋生…、今まで言わなかったけどよ、 オメーもきっと夏生サンに負けねーくらいの良い女将になると思うぜ… 今まで世話ンなったな。ありがとよ…」 秋生「…バカヤロウっ!!」 もう、すっかりその気になってしまって、挨拶などする龍也に秋生は一喝します。 秋生「何、テメー、自分勝手な事ばっか言ってんだべっ?!」 秋生「アニキがどんな気持ちかっ…テメー分かってんのか?!」 龍也「……」 秋生「アニキはよ。ずっと悩んでたんだぜ?お前が犯人じゃねーのかってよ! だけど、それを刑事達には言えずに、悩んでるお前を見ながら、 ずっとずっと…お前が何か打ち明けてくれるんじゃねーかって、待ってたんだぜ?!」 龍也「夏生サン…」 秋生「それをよ、何勝手言ってんだ?!テメーが死んで丸く収まるワケがねーだろ?! テメーはそれでいいだろうけどよ…お前の事考えてた人間はどうなるんだよ?! ……だいたい俺たち…真嶋屋はどーすんだよ?!板前は?!途中で止めんのかよ?!」 夏生「そうだぜ…龍也。もう、オメーが死んだってどうもならねーよ?! それなら……待っててやるから、ちゃんと……いつになってもいいから… …この旅館に戻って来い!!」 龍也「夏生サン…っ!!…うう」 龍也の瞳に、女将・夏生の言葉に今まで我慢していた涙が溢れます。 そして、その場に力が抜けたようにガックリと膝をつくのでした……。 龍也「うう…うあぁぁぁーー」 龍也、その場に崩れ落ちて号泣ーー。 秋生「オメーには、ちゃんと帰ってくるトコがあんだからよっ…」 若女将、秋生も涙が浮かんでくるのでした。 真犯人である龍也は大人しく刑事達に連れられて行きました。 そして、この断崖絶壁に集められた者たちは、一人、また一人とその場を後にするのでした。 刑事鰐淵は悲しい表情を浮かべる海を見ながら、傍らの萌子に言います。 鰐淵「大切なものを守りたいがために、犯す犯罪…。世の中皮肉なモンだぜ……」 萌子「ええ、…事件はいつも悲しいものよ…」 悲しい海に、波の砕ける音だけが響いていました。 (最後はしんみり悲しい音楽で) ●エンディング● マー坊「拓ちゃん、ちゃんとお土産買ったーー?!」 拓「えー?こんだけじゃ足りない??!」 まるで事件なんて無かったかのような…最後の最後は妙に陽気な気分なのはお約束。 秋生「おい。オメーら忘れモンとかねーか?」 やれやれ、という風情で秋生は苦笑い。 マー坊「じゃあね!アッちゃんまた来るネvv夏生さんも元気で!」 夏生「オゥ。オメーこそ元気でな…ってオメーにはそんな気遣いいらねーか?」 そう言って笑う夏生。以下、真嶋屋の従業員の面々。 今から帰るマー坊と拓を見送るため、真嶋屋の面々はいつものように玄関に勢ぞろいしていた。 そこに板長龍也の姿は無い。 ……それが寂しい。 秋生「……」 マー坊「何さー?ンな事より真嶋屋はダイジョーブなの?!来年もちゃんとあるよね?」 マー坊はプリプリと拗ねながら、夏生に向かって言う。 夏生「ああ」 マー坊「本当に?!」 夏生「心配すんな」 夏生や秋生、以下真嶋屋の面々は皆ニコニコしている。 実は先ほど、武丸が真嶋屋を後にしたのだ。 その際の話。 夏生「……オメーには迷惑かけちまったな…うちの従業員のした事だからヨ…」 武丸「ああ…」 夏生「…だからって、これまで通りだぜ。真嶋屋を手放す気はオレはねーからよ?」 武丸「……。オレはよォ…結構、気に入ってんだぜ?この旅館をよォ…」 ニヤリ、と笑って武丸は言うのです。 武丸「ここに泊まりに来んのはよォ…別に嫌がらせってワケじゃねんだぜ?好きで来てただけよ」 いるだけで迷惑なような武丸だが、実は真嶋屋の事は気に入っており、 ただこの旅館で休養を楽しんでいたのであった。 武丸「別にオレぁよォ…単なる客として来てっからよ…?」 夏生「ナンだよ……そうならそうと言えよナー…」 だったら今度からはもうちっと優しくしてやるべか…?とか 真嶋屋を後にする武丸の背中に小声で何やらつぶやく夏生なのでありました。 マー坊「あ!いっけなーい!アレ(この辺の名産品)食べてないや〜! 食べてから帰んないとね!」 拓「ははは、マー坊くんったら…」 秋生「…おいおい(苦笑)」 空は晴天。 青空の下、女将・夏生、そして若女将・秋生に見守られ、真嶋屋を後にする二人。 また来年。 何事も無かったかのように、またこの真嶋屋でお会いしましょう。 END(おまけ) 戻る (2005.9.10) |