風邪っぴきアッちゃん













うう、ダメだ。ヤバイ。

重くてダルイ体。朦朧とする頭。







秋生は珍しく、朝から体の不調を感じていた。

しかし、何だかダルイ、と思っていたら、

日の沈みかけた現在に至っては、体は高熱を発しているし、動くのも億劫な程だ。

真冬にあんな薄着で単車に乗るのは確かに寒い。

しかし、コレまでそんなことが原因で風邪をひいた事など無かった。

――こりゃ、誰かにうつされたかぁ……?

誰だ…とムカツキながら、布団に入って大人しく寝ていたのだった。







「オウ、大丈夫かぁ?…オレぁちっと出かけてくんぜ?」

秋生の部屋を覗いて、夏生がそう告げたのが約一時間前。

ウトウトと浅い眠りから目が覚めて、ボンヤリとする頭で時計を確認する。

気付けば、喉がカラカラに渇いている。

……体が熱すぎる。

秋生はダルイ体を起こし、水を飲むために台所へと立つ。

……が、ぐらり、と揺れる視界。

情けない事に、秋生はその場に倒れこんでしまった。

「……」

もう、面倒臭くなって(というか動けなくて)その場で大きな溜息をつく。

朦朧とする頭で水…と思うのだが、意識はそのまま闇に吸い込まれて行った。







「アッちゃ〜ん?何してんの?…ダイジョブ?」

ベットの横に転がって、意識を手放していた秋生は、その能天気な声で我に帰る。

「……マー坊?」

自分の声が酷く弱弱しくて驚いた。

「さっき、道で夏生サンに会ってさ〜。したら、アッちゃん病気っていうじゃん?」

だから来てみた、と心配そうに秋生を覗き込んでくる真里。

「で、何でこんなトコで寝てんの?」

心底わかんねぇ…という表情で聞く。

「…あ…水飲もうと思ってよ……」

「……ふうん?」

よく分からない風な表情。

「よいしょ、」

そう言うと、真里は秋生の腕の下に手を入れて、

どりゃッ、というかけ声と共に秋生をベットに引きずり上げる。

自分よりも体格で勝っている秋生を持ち上げる真里。

……やっぱり怪力だ。

水を汲んで持ってきた真里は

「持ってきたよ〜」と秋生にグラスを差し出す。

「……飲まして…」

……微妙に甘えてみる。

「ホイ」

とそのままグラスを秋生の口元へと運ぶ真里。

「……口移しで…」

呟いた声は小声だったけど。

「は?」

キョトンとする真里に

「あ〜!!…い、い〜べ…」

ちょっと、調子こきすぎた…と反省し、グラスを受け取り水を飲む。

カラカラの喉に水分が染み渡る。

はあ、そーゆう夢は夢で見よ、夢で…。

熱のせいで取り乱してしまった(?)己を反省しながら、そう自分に言い聞かせる秋生だった。





「アッちゃん、飯食った?」

「イヤ、…食ってねぇけど」

そもそも、それどころでは無かった。

「やっぱ、食わねーとダメじゃねえ?…ちょっと待ってて。」

そう言って、台所へ向かおうとする真里。

「…ヘッ?!オメー何か作る気?!」

出来るのか、そんな事!という思いで一杯の秋生。

1人っ子で母子家庭のクセに、家事能力については全く発揮されてるとこ見たトキねーぞ?!

そもそも、メシとか自分で作った事あんのか?!

「ダイジョーブ、ダイジョーブ、ちょっと待っててネvv?」

そう言って、部屋を出て行った真里なのだが……。

秋生は不安でしょうが無かった。

後を追いたいのはヤマヤマなのだが、あまりに体がダルイので、

真里を信じて(いいのか…?)そのまま眠る事にした。









「『地獄のリョーくん特別レシピ:地獄がゆ』だよーvv」

リョーちゃんに風邪の時って何食うのか電話で聞いたんだーvvと嬉しそうな真里。

それを聞いた秋生はピクリと顔が引き攣る。

料理名に「地獄」とかつけんなよ。食う気失せる…。

そもそもアイツ、食いモン屋の息子だろ…いいのか、そのセンス…。

地獄がゆ…何が入ってんだ?と恐る恐る椀に目をやる。

盛大に盛られた肉。

さらに、禍々しい赤い色。……キムチ?

バカか…オレぁ病人だぞ。

てゆーか普通、お粥はあっさりしてるモンだべ?!。

『肉食えば元気になんべー!!スタミナよ?!風邪なんて一発ヨ?!』

リョーの能天気な声が聞こえて来そうだった。

「コレ食えば風邪なんて一発で治るって〜」

……やっぱり。

しかしそう言ってニッコリ笑う真里が可愛くて、イヤ、申し訳なくて…

やっぱりここは食わねばならないのだろう……。

「あ…熱そうだナ…?」

とりあえず、そう呟いた秋生。

「ん?」

とそれに気付いた真里はレンゲに粥をすくって、フーフーと息を吹きかける。

!!これは!!

何気なく呟いた自分の一言から起こった現象に、秋生は仰天する。

マー坊、フーフーしてんべ?!

さらによく見てみると、真里はきちんとエプロンまでしている。

(真嶋家にある普通のエプロンだが…)

可愛いべ〜〜マー坊!!

好きな奴のエプロン姿って男の夢だべ〜!

気分は(注:秋生の・笑)新妻?!

「ハイ」

そう言ってレンゲを手渡される。

「……ああ」

軽く妄想の世界で幸せになっていた秋生はレンゲを受け取り口に運ぶ。

そうだよな、いくらなんでも「ア〜〜ン」はねえべ……。と照れながら。

「…ッ!?」

何の気なしに食べてしまった地獄がゆ。

幸せな世界から一気に現実へと引き戻される。

―――辛〜〜〜!!!なんだこりゃ?!…バカじゃねぇの?!

現実とはこうも辛いモンなのか…ってこんなのお粥じゃねー!!

キムチ入れすぎだっつーの!!

ったくリョーのヤロウッ……!!

「おいしい?」

しかし、真里の期待に満ちた問いかけに

「…オ、オウ…」

と答えてしまう、男前な秋生だった。←(むしろ悲しいよ…)

真里が、地獄がゆを食べるところをニコニコしながら見ているので、

必死になって地獄がゆとタイマン状態の秋生であった。



「はあ〜…」

…秋生は、辛さ、ボリュームなど……半端でないその地獄がゆを必死の思いでたいらげた。(エラ
イ!)

あ〜口がヒリヒリする。

「…アッちゃん、凄い汗だよ?着替える?」

熱のせいか、激辛粥のせいか、気付けば額からも汗が…。

……オレは冷や汗なんじゃねーかと思う(秋生)

真里は適当にTシャツとタオルを持ってきて、秋生に渡す。

「アッちゃん、大人しく寝てたほーがいいよ?」

「…オゥ」

着替えをすまし、何だか疲れてしまった秋生は、布団に横になると一気に眠気に襲われた。









夢。これは秋生の夢。

「ハイ、アッちゃん、あ〜〜んvv」

レンゲにのせたお粥をフーフーしながらニッコリ微笑むマー坊。

いつの間にか、エプロンが純白のレースに変わってる(男の浪漫系)

「…オウ…」

照れながら、マー坊にお粥を食べさせてもらっちゃう。

それにしても、…可愛い過ぎんぞ、マー坊。

イマイチ上手くいかなくて、口の周りについてしまった米粒を

ニコニコしながら拭ってくれるマー坊。

そして、そのまま自分の口に含む。

「うん、ウマイ☆」

お椀の中を覗いてみると、普通の白いお粥だった。よかった。

食べ終わったオレは、汗をかいたので、着替える事にする。

タオルを持ってきたマー坊がオレの体を拭いてくれる。

背中、首、胸、とタオルを動かすマー坊の腕をオレは思わず捕まえる。

「ん?」

見上げてくるマー坊を、そのまま、熱を持って熱い胸に抱きしめる。

小作りなマー坊の頭をオレの胸に押し付ける。

「……アッちゃん?」

腕に込めていた力を緩めると、そのあどけない瞳でオレを覗き込んでくる。

やっぱ、堪らなく好きだ。

ああ、このまま、キスしたい。

オレは黙ってマー坊に唇を寄せていく。

唇と唇。その距離がもう、あと1ミリという時。

オレはフト考える。

あーー…風邪…うつらねえ…?

…大丈夫。…舌入れなきゃいーんだべ。

チュッってやるだけ……。

それだけだから……。

そんくれーなら…イイだろ?







「…ん?」

朝。

残念な事に目を覚まし、現実世界に帰って来た秋生。

ありゃ、夢か。そーだ、夢だ。……夢に決まってんだろ!

悲しい事に、現実をわきまえている秋生は、即座に自分が今まで見ていた夢を思い返す。

ああ、マー坊可愛かった。

まあ、いいか。夢でも幸せ。

それにしても、惜しかった。あとちっとだった。





そういえば、体が軽い。熱くない。

頭を振ってみても、昨日のような頭重感はない。

……回復?!

「んん…」

「あ?!」

自分のすぐ傍で聞こえてきた真里の声にビックリする。

「あ、アッちゃん、…大ジョブ?」

眠い目をこすりながら、ムクリと秋生の横で起き上がる真里。

「オメーいつの間に!!」

確か、昨日寝た時は一人だったはず。

すっかり真里は家に帰ったのだと思い込んでいた。

「オレも眠くなったからさ〜〜」

「ふ、普通は病人と一緒の布団で寝ねーべ?!」

当たり前の様に答える真里に秋生は一般論を諭そうかと思うのだが…。

「だって〜、オレ、風邪とかひかねーモン?」

……モン?とか言われても。

何なんだ?その自信はよ?

いいのか。自らバカを認めるような発言は。

まあ、見た感じ、真里はいつもの真里である。

風邪の兆候は見られない。

夢の中でさえ気を使った自分が少し可愛そうになる秋生。

「あ〜、今日リョーちゃんが美味いモン持って来てくれるってvv」

リョー!!

アイツは、とりあえず、食ったら治ると思ってねーか?!

昨日の地獄粥について、どーゆーつもりなんか問い詰めてやる……。







しかし、結局、食って寝たら全快している秋生は文句言えないのではないだろうか。






























☆ありがちな感じですが、風邪引きネタで書いてみました。
 風邪ひいて、参ってる割には、結構余裕あるんでは?というアッちゃん(笑)
 てゆーか、だいぶ余裕だな(笑)こんな病人いませんよ……。
 というか、恥かしいアッちゃんですよ…。こんなアッちゃんでいいのかー…。
 妄想激しいよ(笑)というかアホだよ!もう。
 …地獄粥って何だーッ?!(←ふと、思い浮かんだんですよ…トホホ)
 自分で話し書きながら普通に突っ込んでしまった所がチラホラ(笑)
 ホント、どうしよう…な話に仕上がってマス。
 とりとめの無いまま終わります(笑)


(2003.11.9)
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