夏祭り











大勢の人で賑わう、熱い夏の夜。

本日、真里と秋生は近所の縁日にやって来ていた。

気分を出すためにわざわざ秋生と浴衣を着てきた。

藍色の浴衣と金髪のコントラストが和風なのかそうでないのか疑問だが、

浴衣はなかなか似合っていてカワイイ(本人には言えないけど)と秋生は思う。

さらに襟元から除く鎖骨とか色っぽい…などと思っていたりする。

…もちろん言わないけど。

秋生はというと、夏生のお下がりである紺色の浴衣をラフに着流していた。

真里は秋生に「なかなかイケてるぜ」、と言われたのを額面通りに受け取って上機嫌だ。

さらに祭りという事で既にはしゃいでいる。



「なんで、こんな日に限ってみんな用事あんのかなー?!」

皆で来た方が楽しいのに〜、と浴衣姿の真里は残念そうである。

「別に大勢いたってうるさいだけだろ?」

内心(オレのフォロー範囲が増えるんだよ…)と爆音の父(母?)らしい風に冷静に考えるが、

実は皆の都合がつかないのには理由があるのだ。

(せっかくのデート(←秋生的に)なんだから邪魔されたくねー。)

と思った秋生が事前に根回しをしたのであった。

即ち、「マー坊から誘われても断れよ?」とプレッシャーをかけたのであった。←心狭いな〜…

という訳で、ちゃっかりデート状態にニヤリと笑っていたりする。(よかったね!)





金魚すくいなどお決まりのもので遊んだ後、秋生はりんご飴の店を発見した。

別に秋生が食べたい訳ではない。真里が好きなのだ。

「おい、マー坊、あれ好きだろ。行こうぜ?」

と、りんご飴の屋台の前まで来たのは良かったのだが…

「よくあんなモン食うよな〜。体に悪そうだぜ…ってアレ?」

横にいたはずの真里に話しかけていたはずが、そこにいたのは見知らぬ小学生であった…。

(でも身長は同じくらい)

秋生は照れくさいと同時にかなり面食らって動揺した。

(ってマー坊何処行ったんだよ?!さっきまでそこにいたべ?!)

今思えば何時からいなかったんだ…?とか思って焦りながらキョロキョロと周りを探すが、

傍から見るとその姿はちょっと挙動不信な怪しい兄ちゃんである。

「マー坊〜!!」

とりあえず叫んでみるが(これもちょっと恥かしい…)、周りの賑わいの中に、

秋生の声は吸収されていくのみ。

(あ〜〜…何か嫌な予感する…)

真里を1人にしてしまった事に対するトラブル(主にナンパとか喧嘩とかな…)を思い浮かべて

気が気じゃなくなる秋生だった…。

せっかくデートだったのに…。(←秋生的に)



同じ頃。

真里はというと。

「おー!スゲーじゃん!!」

と、お面の店の前で子どもに混じってヤンキー座り。

お面の製作、実演販売に子どもと混じって大はしゃぎである。

「おもしろー。なあ、アッちゃん?」

後ろにいるはずの秋生に話し掛けたのだが…

「…あれ?」

振り向いた先には見知らぬ家族連れ。

キョトンとしている子どもに、ニッコリとマサトスマイルをサービスしながら

(もう〜〜…アッちゃん何処行っちゃったんだョー。いつもはぐれんなとか言うクセに〜)

とふくれてみるが、自分がはぐれたとはちっとも思っていないのだった。

立ち上がって、キョロキョロと周りを見渡すのだが、(マー坊がやるとカワイイ)それらしき頭はない。

ハ〜、と溜息をつきながら秋生を探してフラフラ歩きだす。

その場でじっと秋生を待つという事は出来ないようだ。

お互い探し回ってたら余計収拾がつかなくなるというのに…。



――30分後。

ハア、と溜息をつきながら喧騒から少し離れた木陰にもたれかかる真里がいた。

人の多さと賑やかさに秋生を探すのにも疲れてしまったのだ。

そのためこうして人ごみから離れ、少し薄暗い木々の生い茂る場所から、

賑わう人々の群れをぼんやりと眺めていた。

「たく〜、何処で何してんだー?もー先帰っちゃうぞー!?なあッ?」

1人で淋しいのでさっき釣った金魚の袋を覗き込み、話し掛ける。

水の入れられた袋に金魚がのんきにプカプカと泳いでいる。

どうしようかなー、と真里が思っていたところに、3人組の若い男達がゆっくりと真里の前にやってき
た。

「ねー、何してんの?1人ー?」

「1人なんだったら俺等と遊ばねえー?」

それは明らかにナンパだったのだが、真里が気付くはずも無く、

「1人じゃねえんだけどさー、ツレとはぐれちゃってさー」

困ってんだよ、と男達に告げる。

その警戒心の無い様子に3人は目配せをしながらほくそえむ。



(ふ〜ん、こりゃ一緒に探してやる振りしてどっか連れて行こうぜ)

(おお、さんせー。こいつ、かっわいいじゃん?)

(もしツレもカワイイ女とかだったらさ、そいつも一緒にさ…)

(いいね〜。まあ、いなかったらいなかったでコイツだけで充分だけどよ?)



「俺ら一緒に探してやろうか?どんな奴?」

と親切めいた口調で真里に近寄る。

「別に暇だからよ、気にすんなよ?」

「マジで〜?サンキューな!!」

疑う事を知らない真里は、男達の思惑も知らずにキラキラした視線を向ける。

「えっとな、オレみたいな色の浴衣着てて、背はオレより頭一個くらいデカイ。

んで、黄色と緑の変な色のリーゼントなんだー」

その説明でカワイイ女ではありえないことがハッキリしたので(さらに恐らくごついヤンキー…)、

3人はガッカリしながらも、その人物を発見しても絶対教えない事に決定した。

「じゃ、行こうぜ。だいたいツレとはぐれた奴ってのがたどり着くとこがあんのよ」

と、さもそれっぽい事を言いながら真里を促す。

「へ〜、よく知ってんだなー」

と無邪気に感心までしながら、男達についていくのであった。







男たちの言うままについて来た真里だったが、先ほどの喧騒が遠くにしか聞こえないほど閑散とした

場所に連れてこられ、さすがに(こんなトコにアッちゃんいるかー?)等と思い出したのであった。

そこには真里と男達以外に人は全くの無人だった。

大きな木が茂っていて、暗くてちょっと怖い感じだ。

「あのさ〜、さすがにこんなトコにはいねーんじゃねえ?」

「…ああ?そうだな」

男たちは真里の前後を挟むようにして立ち、ニヤニヤと笑って言った。

「…そうだなって何だよ?お前ら迷子のいそうなトコ知ってんじゃねえの?」

真里は意味が分からない、という様子でキョトンとしてたずねた。

「まだ、わかんねえのかよ?」

クスクスと笑いながら男の1人が真里に近づく。

よく分からないが、バカにされた事には気付いて、ムッとしながら男を見返す。

「だから何なんだよ?…何かムカついてきた…」

いつの間にか男たちからは親切な雰囲気は消えてしまっているし、じりじりと男たちに近づいて来ら
れて

気持ち悪い。

「だから、ツレなんてほっといて、オレらとイイことして遊ぼうぜ?」

(??!)

いきなり、グイ、と肩を押されて、太い木の幹に押し付けられる。

真里はいきなりの出来事に訳がわからないまま、(イテ〜なッ!)とは思ったものの、

3人の男たちに前と横を固められて身動きが取れなくなってしまった。

…ちょっと暴れれば、この状況から抜け出せるのだが

――チラ、と左手に持っていた金魚の袋を見る。

(…金魚死んじゃうし…)

そう、真里はずっと金魚の袋を持っていたのであった。

帰ったらアッちゃんちの水槽に放して飼おう!と計画中だった。

もし、暴れて袋ごと落としてしまったら、恐らく金魚は死んでしまうし、可哀想だ。

暴れ出したいのはやまやまなのだが、どうしたものか…。

(どうしよ…なんかコイツらムカツクし…そもそもイイ事って何だよー?!)

真里が心の中で葛藤していると、

「ヨォ、いいだろ?オレらと楽しもうぜ…?」

正面の男がそう言い顔を寄せ、大人しくしていた真里の耳をペロリと舐めた。

「わッッ!!」

体が跳ね上がるほどビックリした真里は

「何すんだよ!!気持ちワリ―事すんなッ!!」

と思わず怒鳴った。

「何言ってンだよ、気持ちヨクなるぜ〜?!くくく」

意に介す風でもなく、男たちは顔を見合わせて笑う。

(うう〜、マジキモイ…コイツら、うう〜…アッちゃん!!)

さすがに鈍い真里でも、男たちの思惑を悟り嫌悪感で少しばかり涙目になる。

金魚と、この場にいない秋生に恨みを込める。

涙目になりながら震える真里に男たちはますます調子づく。

震えているのは恐怖というより、嫌悪と怒りからなのだが…。

(ああ…どうしよ、どうしよう…)

真里はこの状況を暴れ出さないで解決する方法が無いものかと一生懸命考えたが、

もともと頭が回る方でもなく、普段から喧嘩っ早く、喧嘩以外の方法なんて考え出せるはずもなく…。

「…なあ、お前名前は?」

男の1人が聞く。

「オイオイ、そんなん聞いてどうすんだよ?」

また別の男が効き返すと、

「だって、コイツすげえ可愛いじゃん。気になんじゃん」

「今サラだろ?仲良くお友達になる訳じゃねえんだぜ?」

「ま、コイツが今後も付き合ってくれるってんならアレだけどよ〜」

「オレ、マジコイツ気になる…」

「…惚れたんか!?」

「なんだ〜?!らしくねえぜ!?」

ゲラゲラと笑い合う男達を無視しながらも、結局、暴れるしかねえんかな〜と真里が考えていると、

無遠慮な舌が首筋に這わされて、ゾッとする感覚と共にどうしようもない程の嫌悪がこみ上げる。

(ギャ―!!…ううっ、…もう限界だ…)

せっかく暴れないように、と努力したものの、結局これ以上耐えられそうに無い。

そうとなると、後はもういつものようにブチ切れモードで暴れるだけだ。

金魚の事を頭の片隅で考えながらも、この状況から抜け出せる事に、

せいせいした気持ちにさえなっていた。

「なあ、お前、名前なんて言うんだよ?」

嬲る様に耳元で囁かれ、とりあえず空いている方の拳を握りしめた時だった。





「よゥ、マサト…。」

それは、聞き覚えのある低い声だった。

「…ピンチなのかョ…?名前くらい教えてやれよ…マサト?」

その低音の声が、明らかに、からかう様に名前を呼んだ。

「!!」

邪魔が入った事を悟った男たちはいっせいに声の方へと振り向く。

――そこには縁日の光を逆光に浴びてたたずむ、長身の影が立っていた。











男たちはその長身の影からほとばしる凄みに圧倒され、身動きが取れずにいた。

暗がりの中でさえハッキリと見える、頬を大きく走る傷、そして冷たい眼光に只者ではない事を

感知していた。

「…リューヤ…!!?」

真里は動転したまま、旧知の、しかし決して安心できない人物の名を呼んだ。

――以外にもこの危機的状況に現れたのは、真里と対立する立場の榊龍也だった。





「何だョ!!オマエーッ!!」

邪魔者の進入に、男の1人が本能的には怯えながらも、精一杯の虚勢を張りながら

龍也につかみかかる。

上背のある龍也の襟元をグイ、と掴みギリギリと締め付ける。

そんな男の動きにも余裕の表情で、ゆっくりと自分の襟元を掴み上げている男に視線をやり、

「…誰に手えだしてんのか、分かってんのか…?」

ことさらゆっくりと告げる。

そして、自分の右手で男の顔面を鷲づかみにして、持ち上げる。

「ア、…グウッ」

持ち上げられた男は、悲鳴をあげながら、地面から離れた足でジタバタと宙を掻く。

男は、顔面を片手一本で鷲づかみにされ、地面から持ち上げられている事に、

信じられない気持ちで一杯である。

(コイツはヤベエ…!!)

ヤバイ相手に絡んでしまった事に今更ながら後悔がにじむ。

襟元を掴んでいた手もいつの間にか力なく離れていた。

――ドサリ、と龍也は手を放し、持ち上げていた男を地面に落とす。

「…じゃれる相手まちがえてっと…死ぬゾ…?」

ニヤリ、と口元に笑みを浮かべながら不敵に告げる。

そして、残った二人の男へと、ゆっくりと視線を向ける。

「!!」

「ヒィ!!」

敵わない事を悟った2人は、地面に投げ出された男を引きずりながら、慌ててその場から逃げ出し
た。

龍也は黙ってその様子を見守りながら、またゆっくりとした動作で煙草に火をつける。

深く吸い込んだ煙を吐き出しながら、フン、と男たちの逃げていった方向を鼻で笑った。





その場には真里と龍也だけが残された。

(助かった〜…)

とは思いながらも、助けられたのが龍也だったという事で、素直に礼を言う気にもなれない。

むしろ、何だかカッコ悪い所を見られてしまって恥かしいし、ムカツク…

何でリューヤが出てくんだよ、こんなトコに!!…と思っていた。

「……」

龍也と目が合ってしまったので、無言で睨みつける。

龍也はタバコの煙を吐き出しながら、真里の左手に持つ金魚の袋に目をやる。

龍也にはそれだけで、何故真里があんな連中に対してピンチに陥っていたのか、

すぐに分かってしまった。

もう一度真里に視線をやると、気まずいのか、プイ、と顔を背ける。

その仕草があまりにもガキっぽくて、龍也は呆れながらも口元に笑みを浮かべる。

「アキオはどうしたんだよ?こんなトコ1人でブラブラしてんじゃねえよ」

そもそも、男に対して言う台詞ではないのだが、

真里のお守りである秋生がいない事を不信に思う。

「…うるせーな!!はぐれたんだよ!」

バツが悪そうに告げるのは照れ隠しなのか、自然、声も大きい。

「別にアッちゃんは関係ねーだろ今!?子ども扱いすんなヨ!!」

「子どもだろーがよ…オメェは?今もアブねー目にあってたんじゃねえのかヨ?」

ニヤニヤとからかわれている。その事にムカー!!と来る。

「だいたい、なんでオマエがこんなトコにいんだよ!?」

…そう、不自然なのだ。

龍也が1人でこんな所にいる事が。

1人で祭りに来たって言うのはどう考えてもおかしい…。

かといってロードスペクターの奴等と仲良く祭りに来るっていうのも何か違う…。

そこへ、

「あー!!お兄ちゃん!こんなトコにいたッ」

と小学生くらいの小さな女の子がパタパタと現れ、龍也にくっついた。

「もうッ!!何してたのー?探したんだからねッ!」

「…ちょっとな」

「ちょっとじゃないよ〜!」

龍也にまとわりつく少女と、その少女をなだめる龍也。

真里は一瞬目がテンになる。

(…お兄ちゃん…?…アレ、龍也の妹かなんか…?)

浴衣に、長い髪をお下げにした可愛らしい女の子と龍也を見比べる。

…似てねえー。

「今日はコイツのお守りだ」

先ほどの質問の答えがようやく返ってくる。

「ねえ、お兄ちゃん。この人誰!?」

龍也の妹らしき少女が真里を発見し、嬉々として龍也につめよる。

「友達?!すごいカワイイじゃん!」

(…ムカッ!…カワイーだとぉ…。オメ―に言われたかねー!)

真里はさすがに小学生の少女相手にキレる事はせず、心の中でムカムカを押さえ込んだ。

しかしながら、小学生にまでカワイイと言われてしまう自分に、

本気でちょっとブルーになってしまいそうだった…。

「まあな」

こともなげに告げる龍也。

(まあな、じゃねえだろ!)

…どこに「まあな」なんだよソレは!?

…少なくともオレらは友達では決してナイ…。

龍也は妹と真里を交互に見て、ニヤリと笑いながら言った。

「…1人も2人も一緒なんだよな。オメ―も一緒に来るか?」

「!!行くか!!」

妹と同じ扱いを受けたことに激しくムカツキながら、もう焼けクソ気味で怒鳴る。

「マー坊〜〜ッ!!」

そこにようやく真里の怒鳴り声を聞きつけた(のか?・笑)秋生が現れた。

手にはちゃっかり、りんご飴を持っている(真里の好物)。

「あ?アッちゃん?!」

「マー坊〜!探したべ〜!何やってたんだよ〜…まったく」

やっと(今ごろ)現れた探し人に、真里は驚きと嬉さと…ちょっと怒りのない交ぜになった視線を送る。

「あのなー!探したのはこっちだっての!!もうッ」

「ああ?…ってゲッ、リューヤ?!」

やっとその場に自分たち以外の人物がいる事に気付いた秋生(…)。

それも自分たちが敵対するチームの頭。

ここは喧嘩か?!と身構えた。しかし

「…アッちゃん、行こう」

率先して喧嘩をするはずの真里が秋生の袖を引張って言う。

「ああ?…いいのか?」

「うん」

いつもとは感じの違う真里に虚をつかれ、真里の方を窺う。

真里は秋生の手からりんご飴を取り(当然自分のために買ってきたものと知ってる)、

龍也の方に歩き出す。

そして、龍也とは視線を合わさず、横にくっついていた少女にテレながら言った。

「…コレ、やるよ」

有無を言わさず、りんご飴を少女に渡し、クルリと2人から背を向ける。

そして、秋生の方に走って来て、袖を掴んで

「行こ」

と、まだ龍也の事が気になる秋生を尻目に祭りの喧騒の方に向かって歩みを進める。







「オイ、どした?」

「…別に〜…」

「そもそも何であそこにリューヤがいんだよ?」

「…もーいいだろ〜」

秋生は聞きたいことは沢山あったのだが、悉く真里が答えたくないようだったので、

とりあえず龍也の話はやめておいた。

「なあ、じゃあ今まで何してたんだよ?」

「…!!…聞きたい?その話はもう、スゲエ、ムカついてできねえ…!!」

「…な、何だよ…(汗)」

ヤバイ、コレもダメなんか…。秋生はちょっと途方にくれた。

「も〜!!全部アッちゃんのせいだかんな?!」

「そうなのか…?」

「そう!!」

力いっぱい言い切る真里に苦笑する。

身に覚えがないのでよく分からないが、何とかして真里の機嫌を直さなければ!

「悪かったって。さっきのりんご飴…良かったのか?」

「…よし、もっかい買いに行こ!!どこ?!」



――龍也に素直に礼を言えなかった代わりに、妹にりんご飴を渡してきたのだが。

真里にはそれだけで精一杯だった。

(そういえば、オレあれ好きなんだよな。さすがアッちゃん!!)

何も言わなくても自分の好物を持ってくる秋生に満足しながら、もう一度その好物を手に入れるため
に、

秋生の袖を引張った。

…今度は秋生が勝手にどっかに行かないように。

「あ、アッちゃん、これ持ってて」

そういって大切に持っていた金魚の袋を渡す。

(コイツのおかげで散々な目にあったよ…。)

「?オウ、おい、マー坊、りんご飴あっちだぜ?」

金魚の袋を、何も知らないで受け取る秋生。

「もー!そういう事は早く言えって!!」

プンプン怒りながら、それでも秋生の袖を持ったままついてくる真里。

その仕草が可愛くて、さらにどうせなら手つないでくれねーかな〜などと思ってしまう秋生だった。







遠ざかっていく2人の背中を見送りながら、龍也はまた苦笑した。

「ねー、お兄ちゃん、食べる?美味しいよ?」

「…いらねー」

…それにしても素直じゃねえ奴、と先ほどのめったに見れない真里のピンチを思い返していた。

(…もうちょっと見てても良かったかもな)

もう少し真里のピンチを楽しんでも良かった、と今更嗜虐心が現れる。

――それにしても

(あの様子じゃまだマサトに伝えてねえな…)

龍也は秋生の気持ちを知っていた。

鈍い真里のことだから、少し秋生が気の毒だと思う。

(でも、今日みたいにあんまモタモタしてっと…誰かに横からかっ攫われちまうぜ…?)

思わず口元がニヤリとつりあがる。



「ね、もう行こうよ。」

「…ああ」

短くなった煙草を地面に放り、踏み潰して火を消す。

ゆったりとした動作で先を行く妹の後を追った。

そして、何事も無かったかのように、また祭りの喧騒の中に身を投じた。























☆…で、思わせぶりな龍也で終わる(本当に何なんだろ、この話・笑)
 「じゃれる相手間違えてっと〜」は萌子サンのセリフだい!
 あのセリフ好きなんです。意味違うけど(笑)

 かなり前に書いた話なので色々自分でも言いたい事はありますが…
 無駄に長くてスイマセン。
 アッちゃんが全くヘタレな人でイヤになっちゃう(笑)
 どうして龍也のようにピンチに現れなかったのか…?
 そもそもどうしてあの場面で龍也を出したのか…?
 さらに勝手に妹…??(汗)妹の世話見る龍也…???(汗汗)
 もう、何を考えていたのか記憶にございません(爆)


(2003.10.1)
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