☆翌日/緋川さん
「緋咲さーん!土屋の奴、昨日からなんか怒ってて口きかないんですよー」 寝室に入ってくるなり、不満顔で相賀がそう言った。 昨日のすき焼きの一件以来、めずらしく土屋は怒ってるらしい。 「ほおっておけ」 気のない様子で緋咲が答える。 「でも、このままじゃ今日の夕飯、カップ麺ですよ?」 相賀にとって一番の心配はソレらしい。 緋咲は今日の夕飯の事など正直どうでもよかったけど… 「……時々、面倒くさいからなアイツ…」 土屋はめずらしく怒っていた。 いや、頭にくる事などしょっちゅうだが、相手が緋咲で一日たっても怒りがおさまらなくて… そんな事はめったにない。 いつもは諦めだの虚しさだのが満ちてきて程よく頭を冷やしてくれるけど。 今回はそう簡単に終わらせたくなかった。 何故、自分が怒っているのか。いや、少なくとも怒っているんだという事を分かって欲しい! ダイニングのイスに座ってテレビを見てる振りをしながらそんな事で頭が一杯で 視線は空中を睨んでいる。 様子を伺いに来た相賀は土屋を見て諦めたように台所でカップ麺を作り始めた。 「土屋…」 相賀より少し遅れて部屋に入ってきた緋咲が声をかける。 土屋は動かない。 「土屋」 もう一度やや強く声を出すと、いきなりはじかれたように立ち上がった土屋が 緋咲の目の前までやってきた。 「緋咲さんっ!」 「なんだ?」 あらさかまに怒っている自分を前にこのあっさりした切り返し… いつもの土屋ならここでテンションの目盛がひとつぐらい下がるところだが、 今回はいつもとは違う。 「今日は言わせてもらいますよっ」 土屋は先刻まで頭の中をぐるぐる回ってた事を怒濤のごとく緋咲に向かって訴えはじめた。 緋咲は少し驚いたような顔をして黙って聞いていた。 いや、聞いてるようで聞いてなかった。 だんだんと土屋の声が切々と訴えるようになってきてるが、 内容はいつも言ってる事をまとめて繰り返してるだけだ。 だからBGMのように緋咲の上を流れていく。 最初は何事かとこちらを見ていた相賀も土屋の話がエンドレスしだした頃から自分の食事に戻っている。 緋咲は途切れなく喋りつづける土屋の顔を見つめていた。 「今日の朝だって、昼だって……なんのために……大体…に甘い……すこしは……」 (…コイツ…人に煩いわりには唇荒れてやがんな…) …なんてたわいもないことを考えてるとふいに土屋が喋るのをやめた。 緋咲が話を聞いてない事にやっと気づいたらしい。
目を見開いたまま凍ったように動かない。 新妻のキスを受けて固まる旦那など、ある意味すごく失礼ではなかろうか。 だけど仕方ないのかもしれない。 土屋が緋咲の不意をついてキスする事はあっても反対はないのだから。 しかし静かになったのはいいがいっこうに動き出す気配がない。 緋咲は土屋の頬をつつきながら台所の相賀に声をかけた。 「相賀ぁ、コレ固まっちまったんだが…」 相賀はカップ麺をすすりながら答える。 「あー、だったらですね…、左斜め上から…」 「うん…?」 「軽く殴ると動きますよ?」 ゴガッ! …嫌な音が部屋に響いた。 「白目むいてますね…」 「…むいてるな…」 「むいてるなじゃないっスよ、緋咲さん。左で殴ったでしょ?」 「……オマエが左斜め上から殴れって言ったんだろーが」 「そりゃ、テレビの話だと思ったんですもん」 二人の前には土屋が床にのびている。 緋咲がこんな時ばかり素直に人の言う通りにしたせいだ。 「テレビ壊れてんのか?まだ新しいだろ」 「この間、緋咲さんが土屋の上に落としたでしょ。それ以来調子わるいんスよね」 「……………」 さすがに思うところがあったのか記憶を辿っているのか緋咲は無言になる。 「コレ、どうしましょーねー」 緋咲は黙ったまま土屋を寝室のベッドまで引き摺っていった。 それを見送りながら相賀がつぶやく。 「明日の朝はトーストだな…」 ☆★☆★☆ さあ!トーストで深読みだ!!(笑) 以前、緋川さんが手紙に描いて下さったのを掲載!!(緋川さん、ありがとうございますvv) それにしても、土屋ーッ、幸せじゃねーか!!…土屋がかわいくてなりません…(笑) ![]() (2004.2.28/6.3) 戻る |