作戦はこうだ。 
家出少年に扮したマサトは駅前の繁華街で声をかけられるのを待つ。 
ターゲットは30歳前後の一見、普通のサラリーマン風の男。 
ターゲットが引っかかったら、とりあえず行動を共にする。 
基本的にメシ→ホテルっていうのがよくあるパターン。(オレは風紀を問いただしたい!) 
自宅にお持ち帰りしようとするヤツはお断りする。 
……犯人は自宅にて犯行に及ぶ可能性は低いという推測からだ。 


これまでの事件では、あくまで現場はラブホテル。 
一般的にはホテルにはカメラが設置されている。 
もちろん普段はプライバシー保護のために公開されることはない。 
しかし殺人事件とあれば話は別だ。 
警察はそのカメラからも情報を得ようとしている。 
にもかかわらず、未だに犯人の手がかりは少ない。 
犯行現場のカメラには犯人と思われる人物が映っているものの、 
結局『30歳前後のサラリーマン風の男』というくらいの情報しか得られていない。 
カメラの性能の問題である。 
バッチシ個人が特定されるほどの性能を備えていないのだ。 
という訳で、今ではこの界隈のホテル街には全て警察御用達の監視カメラが設置されている。 




オレは深夜2時まで営業しているコーヒーショップの窓際の席から外を眺める。 
目線の先には中年のデブ親父に声をかけられたマサトが 
「オレ、友だち待ってんだー」とお誘いを穏便にお断りしている。 
明らかに見た目で違うだろ、というヤツは拒否ることになっている。 
無駄足は踏まないよう、誘いに乗る人物像は絞り込んである。 
キーワード的にはこんな感じだ。 
「決して見た目悪くない・普通の感じの・サラリーマン風の・30歳前後」 
…デブの親父は犯人像から外れてるから完全却下。 
時計は12時になろうとしていた。 
今日はもうないか、とオレは今日の捜査の引き上げを考える。 
向かいの席では真嶋が面白くなさそうな顔でマサトの様子を見守っている。 
だいたい、真嶋はマサトが声をかけられる度にムカついている。 
声をかけてきた男を恐ろしげな視線で見つめている。 
『テメー…その顔覚えたぜ、今度会ったらタダじゃおかねーからな…』 
そんな不穏な事を考えていそうなので、 
むしろ真嶋のブラックリストに乗ってしまったヤツらの行く末が気になるところだ。 
後日、道端で全く面識のないヤンキーに暴行されるという事件が起こるかもしれない。 
まあ、それはオレの預かり知らぬところでやってくれ。 
そもそも囮捜査なんだから、声かけられなかったら意味ねーだろ? 
そこはイヤかもしれないけども大人になれよ…と口には出さないが心で思う。 
真嶋的には捜査の進展とかどうでもイイし!マサトにちょっかい出してくんなよ!… 
…と思っているに違いない……。 
オレと組んで捜査に協力しているのも、マサトを危ない目に合わせないためだ。 
とりあえず、捜査云々よりもマサトの安全のために同行しているというのが真嶋のポジションだ。 


コイツ、健気だよな……ふと、真嶋に同情してみる。 
マサトはオレが思っていたよりも、頻繁にナンパにあっている。 
その点では十分に囮役としての役目を果たしている。 
確かにマサトは可愛いんだけど。 
何の予備知識もないヤツがマサトを見ると、小さくて可愛くて思わず声をかけたくなるようだ。 
しかし、…その本性を知ってると、うっかり声をかけたらその可愛い笑顔よりも 
拳を貰う確立の方が高いんじゃないかと思えて遠慮してしまうだろうけど。 
知らないとは幸せな事もある。 
普通にナンパにあうマサトに、真嶋は気が気ではないのだろう。 
もちろん、マサトはか弱い女の子とは違うので、イヤがってるのを無理矢理…なんて危険は無いハズだ。 
しかし、好きな相手が他の男にナンパされる…なんてのは生理的にいやだろう、 
男としては。 
こんなに一生懸命マサトの事で頭は一杯なのに、当の本人はまるで危機感なんてなく、 
むしろこの囮役を楽しんでいると言ってもいい。 
『真嶋の心、マサト知らず』 
………。 
そんな言葉が脳裏に浮かび、オレは真嶋に悪いとは思いながらうっすらと笑ってしまった。 




オレと真嶋は少し離れた位置からマサトとターゲットの観察。 
こうして、マサトの位置が見える店から客を装って観察を続けている。 
大滝は外に停めた車から。 
車中で待機し、もしターゲットが車を使った場合の尾行に備えている。 

この作戦は一応マサト達が学生だという事を考慮して 
(勉学に差し支えないように…という全く無駄な配慮から) 
金曜日・土曜日の夜に行っている。 
今日はもうこの囮捜査が始まって2週間目の土曜日。 
囮捜査4日目。 
マサトも、オレ達もだいぶと慣れてきた。 
これまで、何度か声をかけられた男についてホテルまで行ってみたが、 
ホテル内でのマサトの独自の捜査(マサトによると、まず相手をシャワーに送りこみ、 
その間に身の回り品を調べて、何も出なかった場合それで終わり。 
「やっぱ帰る」と言って相手が駄々をこねる場合は拳で黙らせて帰ってくる) 
では、まだ犯人に接触できていない。全部ハズレ。 
もし、怪しいヤツだった場合は、ホテル外で待機しているオレ達に連絡、 
警察権限にてオレ達はその部屋に踏み込む事となる。 
ホテルに入って1時間が経っても何の連絡もない場合は踏み込む事になっていた。 


「ねぇ、今日もう終わり?」 
オレ達のいる喫茶店の方を向いて言うマサト。 
マサトには盗聴器がつけてある。 
マサト側の声はこちらに繋がる。 
「…そだな。今日は、こんなもんにしとくか」 
「よっし」 
真嶋がやっと終わった、という様子で深いため息をつく。 
時間も時間だし。 
オレは窓越しに手招きして、マサトにこっちに帰ってくるようにジェスチャーを送る。 
マサトは頷いてオレ達のいる喫茶店の方に帰ってこようとする。 



その進路に男の姿。 
若いサラリーマン風の男。オレと真嶋は心なしか息を潜めて二人の様子を見守る。 
真嶋はぶぜんとした表情で男をにらみつけているが……。 
マサトはどうするか? 
男はターゲットとしての要素を含んでいる。 
もしかしたら、この男が犯人なんて事も有り得る。 
男に話しかけられていたマサトはこちらに一瞬だけ視線を向けた。 
『いいよ』 
盗聴器ごしのマサトの声。お誘いを受ける返事だ。 
意外と仕事熱心だ。 


オレと真嶋は二人の後を追うために立ち上がった。 










NEXT 
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犯人現る…?(笑)
何だか仕事熱心なマー坊。
ターゲットの男とは風貌が違うだろ…って人がしつこい場合や複数の人に絡まれた場合は、
マー坊自ら拳で黙らせるか、アッちゃんが(頼んでも無いのに)出て行きます。
『…な〜〜んだ…彼氏いたんじゃん…ちっ』
『だからー友だち待ってるって言ってんだろー!』
(微妙に話しが食い違ってる)


(2007/02/19)
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