『せっかくガミさんから紹介して貰ったんだ、こいつら使わねえ手はねえだろ?』
『ちゃんと、話つけといてくれよ』
と、大滝は無責任にもオレに二人を押し付けた。



……という訳で。
まずは餌付け。
この二人を懐柔するため、オレは餌付け作戦にでた。
美味い焼肉で釣ろう。
自腹のため財布は痛いが背に腹は変えられない。
で、オレは二人を連れて、安くて美味いことで有名な焼肉屋に来ていた。
だいたい、マサトはヤル気になっている。
ガミさんの『ちょっとくらいの暴走行為には目を瞑ってやる』という提案と
何より捜査に対する好奇心からヤル気はマンマンに見える。
あとは問題は真嶋だ。
とにかく真嶋はマサトを危険な目に遭わせたくないと思っているから、
こんな変態相手の囮捜査にはもちろん反対している。
なんとかこのマサトの保護者ぶった、マサトの身を一心に心配している真嶋をウンと言わせないと。
何せ、こいつ等は二人で一セットらしい。
ガミさんの話によると。
捜査に協力をさせるのは、囮役を実行するマサトだけでいいのではないか…
と思ったオレ達なのだが、ガミさんによると、
『もし、マサトがぶちギレたりした時の押さえ役として真嶋は必要だ』という事なのだ。
だから、マサトの了承はもちろん、真嶋の了承も必要なのだ。
面倒な事に。
……面倒ってことなら、そもそも囮捜査ってのが面倒な話だ、実際。
オレはやりたくない。
オレは反対してるんだ。


「飲み物頼めよ」
「メロンソーダ!」
「生中」
…っておい!普通に酒を飲むな!真嶋!!
「おい、こら。」
普通に店員にアルコールのオーダーを通す真嶋をじっとり見る。
いや確かにまるで違和感は無いのだが。
店員も普通にオーダーを聞いて言ってしまう。
「オマエ、未成年だろが」
「…」
今更ンなコト言うのかよ…と、うっとおしそうな真嶋。
「保護者同伴ならイイんじゃねえの?」
こんな時だけオレ保護者か…。

さすがに育ち盛りの男子高校生。
普通に食う、食う…食う!!
黙っていると次々と注文が追加されていく。
何でも好きなだけ食え、と言った手前ごちゃごちゃ言えないがそれにしても遠慮がない。
既に何枚もの皿が平らげられ、新しいものに取ってかわっている。
「上カルビ追加ー!あとハラミも」
「あっじゃあ、オレぇ…冷麺食べる!」
テンポよく次々とオーダーを通してゆく二人。
「あと生…」
「オマエら、遠慮がねえよ」
そして真嶋はザルな勢いで酒を飲むな!それは何杯目だ!
オレが知る限りで、もう片手はいった。
「ンだよ?自分が食えっつったくせに…なあ!アッちゃん」
「おう」
まあ、その通り。
しかしそれには理由がある。
「……でよ、捜査…協力してくれねえか?」
「いいよ?」
「…お断りだ」
マサトと真嶋が同時に反対の答えを返す。
「そりゃ、オマエが心配すんのも最もだよ。分かる。
でも、オレらも危険が無いように全力で努力する」
危険だからこそのこのキャスティングなのだ、とはとても言えない。
殺しても死ななさそうな、マサトだからこそだ。
だけど出来る限り危険な目に遭わせない様にするのは事実だ。
もちろん囮役の安全は最優先されるはずだ。
オレは真剣に告げる。
「オレも本当は囮捜査には反対だ。…でも、やるからには絶対に成功させる」
とくに真嶋に向かって言う。
「犯人を捕まえたい」
「……」
オレの真面目な言葉を聞いて、真嶋はイヤそうな顔をする。
ンな風に言われっと、断りづれーだろ…という顔だ。
よし、あともう少しだ。



今日のところはここまで。
焼肉で腹を満たして上機嫌な二人を先に店から送り出し、オレは会計を済ませる。
財布は泣いているが、しょうがない。
これも犯人を捕まえるための地道な努力……。
あ、でもこの役目、なんでオレなんだ。
大滝でもいいんじゃねえの?と気付き腹が立ってきた。
そんなオレよりも一足先に外に出ていたマサトと真嶋。
対向から来た酔っ払いの集団に行く手を遮られていた。
フラフラと足元の覚束ない酔っ払い4人が絡んできたのだ。
「オ〜イ、邪魔だよゥ〜〜…こんな道の真ん中歩いてんなよォ…ボクゥ…」
「ぶつかっちまったー…ゴメンなあ、ちっこいから気付かなかったぜ〜」
酔っ払いたちは口々に好き勝手な事を言っている。
「可愛いボクだなぁ〜」
酔っ払いの一人が、マサトの肩に手をつき可愛いもの見つけましたvと顔を綻ばせている。
……所詮は酔っ払いだ。
迷惑行為には目を瞑ってやって無視してやればいい。
よくある事だ。
しかし、絡んでくる男達を無視するのかと思いきや。
マサトが低い声で言う。
「ナニ…?ケンカするか?」
えっ?
ケンカすんのか?
だから何で、そう好戦的なんだ!
まだ売られても無いケンカを買うマサトにオレは呆然とする。
つまり、ケンカ売ってるっていうのか?ソレは…等と考えてるうちに。
酔っ払いの体がマサトから引き剥がされ、後方に吹っ飛んだ。
「いつまでも触ってんじゃねー」
マサトにちょっかいを出した事にキレたらしい真嶋がその男の頭を薙ぎ払ったのだ。
「あーアッちゃん…もう」
ずるい、それは自分がしようとしてたのに…という非難めいた視線を真嶋に向け、残念そうにしている。
「ああいうの、ムカツクべ」
結構、酒が入っているはずだか、見た目はケロっとしている真嶋。
まるで、自分は素面であるかのように言った。
「酔っ払いは迷惑だから死ね」
物凄く不穏な空気を纏って。
だから、何でそんなにキレてんだ、オメーは!
冷静そうなフリして全然冷静じゃねーし!
「マー坊に触んな」
思い切り眉間に皺を寄せて吐き捨てる。
素面でそんな事いうのかオマエは。
さてはオマエも酔っ払ってんじゃねえの?!
とオレは心の中で突っ込んだが、事態はオレの手では収集がつかない方向へ。
「何してくれてんだ、テメー!!」
殴り飛ばされた酔っ払いの連れが当然、怒りを露にする。
「このガキがっ!!」
そう喚きながら自分に殴りかかってこようとする男を視線に捕らえて、
マサトは唇を持ち上げて笑った。
…それはもう、嬉しそうに。
オレはちょっと鳥肌が立った。


気付けは一方的に酔っ払いの集団が地面に転がっていた。
時間にするとほんの数分。たぶん5分もかかっていない。
マサトと真嶋は無傷だった。
息一つ乱れてない。
真嶋は不機嫌そうにしていたが、マサトはというとあの可愛らしいサワヤカな笑顔でオレを振り返り、
「やっぱさー、メシ食った後…シメはアイスじゃねえ?」
と、自分が今、地面に沈めた相手の存在などどこ吹く風。
……オレが静止する間もなかった。
当然の様にケンカを始め、そして簡単に数人の相手をぶちのめしたマサトと真嶋に。
オレは、呆れてしまった。
コイツらにとってはケンカ…殴り合いなんてのは本当に朝飯前なのだ。
特に特筆するに値しない些細な出来事…。そんな感じだ。
そして、この二人、…半端じゃなく強い。
オレには分かった。
だがしかし。

『もし、マサトがぶちギレたりした時の押さえ役として真嶋は必要だ』

ガミさんの言葉を思い出す。
……本当に真嶋、必要か?
ってゆうか、使えるのか?押さえ約?
押さえ役どころか、一緒になってコトを大きくするんじゃねえの?
どちらかというと。
今も結局、最初に手を出したのは真嶋なんだが…。


…そんなオレの不安はさておき……
酔っ払いの真嶋は、マサトによって捜査に協力する事に頭を縦に振っていた。
「アッちゃん、よっく聞けよ?」
『やっぱパフェ食いたい』というマサトの希望で入ったファミレスの一角。
ポム、とマサトは真嶋の両肩に自分の手を乗せる。
聞き分けのない子供に言い聞かせるように。
「オレ達がちょっと捜査に協力したら、ガミさんちっとくれーでウルサク言わねえっつうんだよ?」
「…」
真嶋はコクリと無言で頷く。
「だからさあ、頑張ろうぜ?」
「……」
真嶋は反論するでなく、赤い顔でマサトを凝視しながら大人しく話を聞いている。
いや、聞いてるかどうかは不明だ。
ぼんやりマサトを見ているだけな気もする。
「なっ?」
……マサトが、それはもう凶悪に可愛らしいツラで真嶋の瞳を覗き込む。
「……ああ」
案の定、真嶋は。コクリ、と頷く。
マサトに笑顔で同意を求められて反射的に頷いただけに見える。かなり。
……オマエ、話はちゃんと聞いてたか?
と突っ込みたくなったオレだが……まあオレ的には真嶋がこういう奴で結果オーライだ。
マサトがオレの方に満面の笑みを送ってくる。
オレ、ちゃんと説得できたよ?
そんな感じだ。
それにしても。
まったく…オマエ、マサトに弱いにも程があるんじゃねえか、真嶋よ。
マサトの笑顔に超弱い。
マサトに可愛く頼まれると断れない。
そんな情けない酔っ払い真嶋を見ながら、オレは、
ああ、でもこれが酔っ払ってなくても別に一緒だろうな…
何にせよきっと真嶋はマサトに逆らえねえんだ…と確信した。
しかし、いいのか。
そんなカンタンな奴で。


そんな真嶋の横で、マサトは運ばれてきたパフェを目の前にして満面の笑みを浮かべていた。










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アッちゃんなんてちょろいゼvv

(2006/12/09)
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