---弟の世話見る心配性の兄貴 …はじめは 幼馴染というよりは、むしろそんな風に思えた。 過保護…というと変だけど、真嶋のマサトへの接しようときたら、まさにそんなカンジなのだ。 「…つー訳で、犯人は一見普通の若いサラリーマン風の男。」 オレは、今までの事件の説明と、最近得た少女Aからの情報を簡単に二人に伝えた。 「ここぞという時になって、やっと本性を現すらしいぜ」 普段は「普通の人」の範疇からはみ出る事なく生活している。 しかし、安心してついて行くと、実は連続殺人犯なのである。それもサディスト。 「……」 真嶋は嫌そうな顔で真剣に聞いている。 それに反してマサトはというと、むしろ楽しそうにワクワクと聞いている。 「……そんな犯人を捕まえるために、オマエに囮になってもらおうというのが今回の作戦な訳で」 「作戦…!」 その言葉にマサトは嬉しそうに反応する。 その反応にオレはちょっと呆れてしまうが、利用するには好都合だ。 「あのなー…、遊びじゃねーゾ?」 いや、これは本当に。 相手は連続殺人犯。それも変態。 何が起こるか分からないし、最悪命の危険もあるって事だ。 「相手は変態殺人犯なんだからよ?身の危険ももちろんあるぜ」 ……ピキッと真嶋から変な音がした気がする。 「あのよー…分かった。話は分かったぜ。犯人っぽい奴にに接触して、 本物の犯人か探るっつー話だろ?」 真嶋は何だか不機嫌だ。 「ああ、そうだ。その接触して探るのがちょい難しい。」 「そいつにホテルかどっか連れ込まれたら、 犯人っぽいモン持ってねーかとか調べりゃイイんだろ? または何か危ねー事されそうになったら決まりだ」 「そう。そういう訳だけど、その間、犯人と二人っきり。それが危ない」 真嶋はオレをじっとりと睨み付ける。 「…すげー危ねーじゃねーかよ!!」 「……だから、初めから危ないって言ってんだろ?」 「んな事、一般人にさせようとすんなよ!初めから!」 「いや、オレはもともと反対なんだけど…」 「まーまーアッちゃん、そう興奮すんなよ?おもしろそーじゃん?」 「……おもしろくねーよ!」 「分かった。……じゃあ、囮はオレがやる!!」 しばらく黙り込んで、何か考えていたらしい真嶋がやっと口を開いた 「へっ?」 「だから、マー坊の代わりにオレがやんべ」 「えー?アッちゃんが?」 「だって、危ねーべ?オマエ……」 真嶋はマサトに言い聞かせるように言う。 「そんな変態よー…ナニされっか分かんねーべ?オレ心配で頭おかしくなったらどーすんだよ」 「もう!アッちゃん心配症なんだから〜〜」 「ワリーかよ…。という訳で、その役はオレが」 「……ちょっと、待って…。真嶋…気持ちは嬉しいんだけど」 ……ちょっと、というかだいぶ無理があるんじゃね?!! 「ハッキリ言って、オマエは犯人のタイプじゃねーと思うんだ…」 「タイプだったら危ねーだろ」 イヤ、タイプじゃなきゃ意味ねーし!! こいつら…。やっぱり話聞いてるようで聞いてないのか…?頭悪いのか…。 「えーもう一度説明すると、今までの被害者はちっこくて可愛い系の少年少女。 犯人は恐らくその手のタイプを選んでその毒牙にかけているモノと思われる。 という訳で、囮には犯人が食いつくような、つまり犯人好みの、 その手のタイプで行かないと意味が無い訳。 ……分かる?」 オレは殊更ゆっくりと、丁寧に説明した。 「で、それにはここにいる鮎川マサト15歳、は容姿的・年齢的にも 非常に犯人の好みだろうと思われて、囮捜査の囮役にはうってつけの人材な訳なの。」 オレはマサトは指差す。 続いて真嶋に視線をやる。 「真嶋アキオ15歳の見た目では、いくらやる気があっても…… …犯人引っかからないと思うんだけど…どう思う?それじゃー、意味ねーだろ?」 「……オレじゃダメかよ?」 かなり本気で不服そうである。 「あー…自分で自分の事、ちっこくて可愛いタイプと思うか?」 「思わねーケド…」 ちっと舌打ちして眉をしかめる。 既にその顔が怖えーし…。言わせてもらうとちっとも可愛くないぞ。 「このちっこいのが心配なのは分かるけどよ、オメーじゃちっとな」 今までオレに面倒な説明をさせて、傍観を決め込んでいた大滝が口を開いた。 「それによー、こっちのちっこい方もガミさんの話によると無茶苦茶つえーんだろ? オマエがそんな心配する必要ねーんじゃねえの??」 そうなのだ。 オレもそこまで真嶋がマサトの事を心配するのが納得いかない。 上村の話によると、マサトは族の頭で、無茶苦茶強くて。 キャラ的に真嶋に心配されるような、か弱いタイプじゃないのだ。 「……そーだよ、アッちゃん。 オレ、何かあったとしてもそんな奴ぶっ殺しちゃうからダイジョーブvv」 マサトはというと、まるで危機感が無い。 それはそれで少し問題ある気もするが…。 「殺すのはやめてくれ…」 殺しちまったらそれも意味ねーんですけど…。 「でもよー、マー坊、相手は変態だぜ?何されっか分かんねーべ?!」 しつこい。非常にしつこいぞ、この真嶋。 それに凄く嫌そう……。 「だから〜、危ないと思えばぶん殴ればイイんじゃね?」 「そうは言ってもよーー」 何だかやたらと納得いかないような真嶋。 「オメー…イヤじゃねえの?そんな変態と二人っきりでホテルとか行くんだべ?」 「キモイけどさーー。そんくれーのコトでガミさん煩く言わねーっつーんだぜ?」 「……そりゃそうなんだけどよ…」 大滝が口を挟む。 「真嶋よー、オマエ何をそんなに心配してんだよ?コイツはあの鮎川だろ?! そのへんの、か弱い女の子じゃねーんだぜ…?」 「そうだよ、アッちゃん。オレ絶対タイジョーブだよ」 「…………。 そりゃー、オメーが腕っぷしじゃ誰にも負けねーのは分かってんよ? だけどよ?…相手は変態だぜー?!何が起こっか分かんねーべ? それに気持ちワリーべ?嫌じゃねえ??!」 そう、嫌なのだ。 真嶋が。 ははーーん!! オレはピンと来た。 嫌なのだ。真嶋が。 もちろん、幼馴染を心配する気持ちもあるだろう。 だけど、男同士だぜ。 そこまで激しく心配する間柄とは思えない。 …単純に、真嶋は危ない変態を近づけたくないのだ、マサトに。 恐らくマサトの事好きなんだろう。 だからつまり、この心配性で過保護な様子は兄貴というより恋人気分に違いない。 だけど、マサトはそんなこと気づいてない、とオレは見た。 見た感じ、真嶋の接しようときたら、そりゃもう、あからさまだけど。 マサトは鈍いに違いない。 「……アッちゃん、オレがそんくれー出来ねーと思ってんだろ…?」 そうこうしているうちに、マサトが何か誤解して拗ねはじめる。 マサトに上目遣いに見つめられて、真嶋は居心地悪そうだ。 「ンな事言ってねーべ?」 そう。 マサトがどうこうという訳ではなくて、真嶋は変な奴をマサトに近づけたくないのだ。 オレは目の前の二人を見てニンマリ笑う。 だって、面白い。 この大人びた真嶋はマサトの事となるとちょっとバカっぽくなるし、 マサトはマサトでそれに全然気づいてねーし……。 傍で見てる分には真嶋が可笑しくて楽しめる。 ----可愛いトコあるじゃんよ しかし楽しんでばかりもいられない。 真嶋を納得させて、囮は是非ともマサトにやってもらわないと。 (2005/06/26) NEXT アッちゃん心の叫び↓ 「ホテルなんてオレとも言った事ねえのに!」 ……当たり前だろ!!(笑) 戻る |