==少女Aの証言==

「だから、あたし絶対ヤバイと思ったの!」
そう言って、少女Aは俺に自らの危機一髪を訴えた。



その日少女Aは、家に帰りたくない気分だった。
明日は学校も休みだし、家に帰っても折り合いの悪い両親と顔を会わすのが面倒くさい。
これから、どうしようか。誰か、これから連絡がつかないものか。
携帯電話を取り出して、いつもの遊び仲間の何人かにコールしてみるが、誰もつかまらなかった。
そんな時、知らない男に声をかけられた。
スーツ姿の男。少女Aが言うには普通の男。
年齢的にはまだ「オッサン」でもない。
(「おニイさんくらいかな?」と29の俺をつかまえて言ったので、まだ若目という推測)
顔も嫌いじゃなかったし、金も持ってそうだったので、ついていった。
最初は、普通に夕食を食べて話をして、…もうそろそろ夜も遅い時間帯だった。
「まだ家帰らなくていいの?」
そう聞く男に、少女Aは「家嫌いだから。帰りたくない」と言った。
すると、男は「…じゃあ、朝まで一緒にいようか?」と持ちかけた。
男は決して強引でもなかった。
少女Aは何となくダラダラと男と時間を共にし、結局疲れたので休憩しようという名目で、
ホテルまでついて来てしまった。
いくらでも帰るチャンスはあった。
しかし、男に少しも危険な様子が無かったので、そのまま、何の危機感もなく男について来てしまった。
男がシャワーを浴びている間、少女Aはテレビを見ていた。
ちょうどその日最終のニュースを放送していた。
そこで、少女Aは突如思い出した。
今、ニュースを賑わす連続殺人事件。
−自分くらいの年頃の被害者…が、ホテルで…まだ犯人は捕まっていない−
急速に不安を覚えた少女Aは、男の持っていた鞄をこっそりと調べた。
すると、驚くことに鞭やスタンガン、手錠、あと他にも何か少女の知らない道具が色々と入っていた。
(なにコレ!!?何でこんなモン持ち歩いてんの?!)
連続殺人の犯人はサディストで、被害者は皆、体を傷つけられ、痛めつけられて殺された。
驚いて気が動転した少女A。
ドキドキと心臓が早鐘を打つ。
このまま、だと。
絶対にヤバイ。
もし殺人犯でなかったとしても、SMはご免だった。
男がシャワーから戻る前に、音を立てないよう、男にバレないように注意しながらも、
なんとかその部屋から逃げ出した。




……何でそこまで見といて、財布から免許書とか抜かねえんだよ!!
もう少しでそいつの身元が明らかになるとこだったのに、惜しいとこだ。
しかし、さすがに一般人の少女Aがとっさにそこまでは頭が回らないのもしょうがない。
「ああいう、普通の顔したやつが実は変態とは、よく言ったもんよ!」
少女は取り合えず、怖かったのでその日は家に帰った。
そして次の日、黙ってるのも怖くて警察にやってきた。
恐らく殺されるのを免れた、貴重な証言だ。
「確かに、危ないトコだったんじゃねえ?」
少女Aは俺の所に回されて、漸くまともに話を聞く相手に出会えて嬉しそうだ。
「でしょ!!人は見かけによらないよね!」
「…そうだな。お前も知らない男とホイホイとホテルに行くようなタイプにゃ見えないぜ」
「よけーなお世話よ」
……最近の若いモンの貞操観念は乱れてると思うのは俺だけか。
「今日はちゃんと家に帰れよ。」
「……」
「危うく死んでたかと思うと、家だってヤな事ばっかじゃねーだろ?」
「…そうかなー…」
「晩飯くらい奢ってやろうか?」
「うん…」
最近の若いモンって世話が焼けるよな。
他人の事には鈍感で、自分の事には繊細で傷つきやすい。
家庭や学校で上手くいかなかったり。何かしら抑圧されてたり。軽率な行動が多かったり。
そして、誰かに救われるのを待ってる。
手を差し出されるのを待ってる。
そんな奴が多い、と俺は少年課でも無いけど思ってみたりする。








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大滝からの説明はこうだ。

鮎川マサト。
激しく抗争を繰り返す横浜の暴走族の中でも有名なグループの一つ、爆音小僧。
その7代目頭。
可愛らしい外見に反して相当エグイらしい。
普段ニコニコしているがキレると誰も手が付けられない凶暴さを持っていて、
そのへんのチンピラはアイスを食いながらでもKOできる。
ケンカも強ければ、バイクの腕もウルトラ級(意味分からねえし)らしい。
何事にも物怖じしない、天真爛漫なタイプ

真嶋アキオ。
マサトの幼馴染で、同じく爆音小僧7代目の特攻隊長。
マサトとは打って変わって、大人びた印象を与えるが、拳ひとつでケンカは終わるとか。
兄貴が6代目の頭で、家は板金屋。
チームのまとめ役とメカニックをかねて、皆から慕われている。
(しかしマサトがキレた時は真嶋もお手上げ状態になる)

で、この肉体的に超がつくほど強力そうな二人である。
捜査に焦っていた大滝が少年課の古株刑事に相談した所、紹介されたのだそうだ。
「あいつらなら、ちょっとやそっとのことでは死なないだろう」
と思いついたのかは知らないが、少年課の上村はある程度暴走行為を多めに見る代わりに、
ちょっと人と会ってくれないか、と持ちかけた。
始めから捜査に協力してくれとは言わないとこが上村のうまいトコだ。
協力させるかどうかは俺たち次第という事だ。



非行に走る少年たちというのは、だいたい家庭に問題を抱えていたり。
何かしら満たされてないものがあったり、と言われるのが一般的だ。
しかし今の世の中、子どもにとってもストレスの多いこの時代、悩みが無いとか、
全て満たされてるなんていう、精神的に健康的な奴というのも少ないのではないかと思う。
それに若者特有の悩みというのがある。
まあ、色々タイヘンね、という訳なんだが。
しかし、この暴走行為(=非行)を行っているという二人の少年に関して言えば、
そんな鬱屈した精神とは無縁のようである。
この2人がまとう空気というのは、もっと能動的で、澄んでいる。


……要はちょっとバカっぽい。
下手に出て頼めば、アッサリ協力してくれそうだ。










(2005/06/05)


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少女Aよ、清算しないとオートロックが解除されないようなハイテクのトコだったらどうするつもりだったんだ……。
あ、しかし10代半ばからしたら30歳くらいってオッサンじゃないかしら??そういえば!!(笑)
というか、もうこの刑事たちはムチャクチャするよ!
(少年課古株刑事=ガミさん)

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