連続少年殺人事件。 当時、俺が捜査していたのは少年少女が被害者の殺人事件だった。 被害者は主に十代の少年少女で、その殺害方法がいづれも酷似しており、 同一犯の犯行と見られていた。 主にラブホテルの一室でその犯行は行われる。 被害者を拘束し、さらにアルコールで酩酊状態にして、体の自由を奪った上で、 長時間に及び苦痛を与えるために暴力を加える。 そして、最終的にはその命まで奪ってしまう、快楽殺人犯の犯行だった。 先輩刑事の大滝に呼び出された俺は、この二人を紹介されて思わず仰け反った。 その時の大滝の言葉が 『この善良な少年に囮捜査に協力して貰おうと思う』 というものだったからだ。 俺はその時疲れてはいたが、まだ冷静な頭を持っていた。 「……何言ってんすか、大滝さん」 早く犯人を捕まえたいのは解かる。これ以上の殺人を繰り返させる訳には行かない。 ……が、『囮捜査』。無茶である。 そもそも囮捜査なんてものは認められてないし、それをこんな少年たちに協力させるのも危険すぎる。 相手は連続殺人犯で、もう何人も殺している。 囮になるなんていうのは、それこそ命がけだ。 ……それを何故こんな無関係な少年を連れて来て言うのか。 ハッキリ言って、理解できない。 「冗談…じゃあねえぜ、柏原。…俺は何としてでも犯人をあげてえんだ」 「それは俺も一緒ですけどね、だからって無関係な一般人… …それもこんなガキを連れてきて何言ってんすか」 「犯人のターゲットはこんなカンジの可愛いガキだぜ?」 「だから!まさにピンポイントで危険すぎるっちゅー話ですよ!!」 マサトを指差して「好きそうだろ?」とニヤリと笑う大滝に、俺はマジでついていけなかった。 …犯人の好みのタイプ―つまりこれまでの被害者―は10代前半の少年と少女。 小柄で可愛らしいタイプだ。 大滝の連れて来たマサトはまさにそんなカンジだった。 ソファに腰掛けたまま、俺たちのやり取りを頬杖しながら不思議そうに見ている。 今まで自分を無視していた俺の視線を受け止めて、マサトはまっすぐ俺を見返す。 落ち着いた、何事にも動じない目だった。 そして、こんな状況だが好奇心に溢れていた。 その大きな瞳に見つめられて、俺は一瞬、ドキリとする。 ……かなり、可愛いぞ。 金色に染めた髪が、その細い輪郭をより幼く見せている。 年齢もあるのだろうが、少年なのか少女なのか、一瞬思案するような中性的な少年だった。 確かに、……犯人が好きそうだ。 「あのよお…」 マサトの横にいた真嶋が、嫌そうな顔を大滝に向けて言う。 「こんなトコに連れて来て、俺らに何させてーんだヨ…?」 「…大滝さん、何も言わずに、ただ連れて来たんすか?!」 俺はこの二人は『囮捜査』に同意の上でこの場に居るものと思っていた。 真嶋の言葉を聞いて、大滝の暴走が過ぎる事を知ったのだ。 しかし、大滝は動じるでもなく、 「こいつらはよ、柏原。まあ、…その辺にいる普通のガキじゃねえんだよ」 ニヤリ、と笑った。 そして、漸く俺に二人の事を紹介したのだった。 大滝の説明を受けながら、俺はマサトを見ていた。 俺の不躾な視線を受け止めていたマサトが、口の端を持ち上げて笑った。 その瞬間。ゾクリ、と背筋に何かが走った。 (2005/06/05) NEXT 先輩刑事=大滝 戻る |